非上場企業一条工務店の過去20年の売上と利益~やや鈍化?一方で工場拡大~

こんばんは。さすけです。大変ご無沙汰になってしまいましたm(_ _)m

先に書かせていただいた太陽光火災リスクの件は1kWあたり1万円で鋼板敷設が行えるようになったようです。ただ、原則顧客側から要望を出さなければならず提案をしてくれるわけではないようです。このことはもう少し調べてまとめたいと思っています。

さて、本日はちょっとしたメモ的な内容です。

今回のテーマは「一条工務店の売上高」です。

一条工務店はあまり宣伝をしないため、企業名は一般にはほとんど知られていません。しかし、注文住宅の建築棟数ベースでは積水ハウスと1位を争う最大手となっています。

一条工務店が積水ハウスを抜いて住宅販売棟数1位に?大丈夫??

一条工務店は宣伝をしない、そして非上場企業であるが故に情報はほとんど公開されておらず企業の構造はもちろん、売上高一つ取っても単年では公開されていますが、過去のトレンドはほとんど知られていません。今回は、そんな一条工務店の過去20年分の売上高の推移をご紹介したいと思います。

今回の記事は、これから家を建てる方のためというよりも、一条工務店に就職を希望されている学生さん向けと思って書きます^^

一条工務店はフランチャイズ店の一つ

一条工務店とフィリピン工場(HRD)の関係

一条工務店の売上高を見る前に一条工務店の企業構造について確認します。

一条工務店は原則フランチャイズ形式で企業を経営しています。フランチャイズ形式と聞くと、一条工務店がフランチャイジー(親玉)となって、一条工務店仙台、一条工務店群馬、一条工務店山陰といたフランチャイズ店を率いているイメージを持ちますが、実際は全く違っています。

一条工務店は「フランチャイズ店の一つ」に過ぎません。

一条工務店で家を建てた方であれば、一条工務店の家がフィリピン工場で作られていることはよくご存じと思いますが、この「フィリピン工場」であるHRDが一条工務店のフランチャイジーとなって、一条工務店を含めた国内の一条工務店グループに住宅を提供しています。コンビニであればセブンイレブンの本社が商品を製造し、販売するのはフランチャイズ店である各店舗となっていますが、一条工務店も全く同様にHRD(一条工務店フィリピン工場)がフランチャイジーとして一条工務店の住宅を製造し、それを日本国内にあるフランチャイズ店に対して提供することで住宅を供給しています。

いわゆる「一条工務店」は国内最大手の一条工務店の国内フランチャイズ店に過ぎません(Facebookなどを見ていると人材の行き来があるようですので、コンビニのように完全に分割されているわけでもありませんが。。。)。

一条工務店の構造は詳しくは下記の記事に書いてあります。

一条フランチャイズ店と一条工務店のびみょ~な関係?

一条工務店グループとは?

一条工務店では、売上高をはじめとした情報を「一条工務店グループ」という形で公表していることがあります。

この一条工務店グループには一条工務店のフィリピン工場であるHRDは含まれておらず、下記のように国内に所在するHRDのフランチャイズ店だけを指しています。

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普通であればHRDも含めて一条工務店グループでは?と思いますが、一条工務店ではフィリピン工場のことを基本的に全く公開しておらずホームページなどでも一切情報がありません。そもそも、資本関係があるのかも不明です。よって、一条工務店としては国内の一条工務店の「フランチャイズ店同士」を一条工務店グループと呼び、一条工務店グループにHRDは含んでいません。

よって、今回ご紹介する一条工務店の連結売上高にもHRDの売上は入っていません。とは言っても、実際はHRDで製造した住宅のほぼ全てが日本国内のフランチャイズ店で販売されているので、実質この売上高から国内の経費を差し引いた額がHRDの売上高になるので推測は容易ですし、情報が全くないわけでもないので紹介も可能ですが、マニアックになりすぎるので今回は割愛します。

一条工務店過去20年の売上高推移

住宅施工棟数の急上昇

一条工務店は直近10年で急激に施工等数を伸ばしたハウスメーカーとなっています。2010年時点の一条工務店グループの施工等数は年間8千棟弱で、国内ハウスメーカーの中で7位となっていました。しかし、2017年には注文住宅施工等数が年間1万2千棟を超え、積水ハウスの施工等数が減少したことも手伝って注文住宅施工棟数国内1位(もしかすると僅差で2位かも?)となりました。

下のグラフは2010年の施工等数を1としたときの2016年までの施工等数の変化率を示したグラフです。

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一条工務店が他のハウスメーカーを大きく引き離して施工等数を伸ばしてきたことが分かります。

では、売上高や利益はどのように推移してきたのでしょうか?

一条工務店過去20年間の売上高推移

一条工務店の過去20年間の売上高の推移は下記の通りとなります。2017年のみ推計ですが、それ以外の値は全て一条工務店のホームページに掲載されていた情報に基づいています。一条工務店のフィリピン工場こと、HRDが稼働を開始したのが1997年のことなので、本当はもう少し前の売上高もわかれば良かったのですが、私の調べた範囲で見つけることができませんでした。。。

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こうしてみると、一条工務店が1998年~2003年頃まではほぼ売上高1500億円程度で推移してきており、2008年はリーマンショックの影響とみられる売上減があったものの、2009年から2012年に書けて再び堅調な売上の回復をし、2013年に前年の売上高を600億円以上上回る売上を挙げて急成長期に入り、2016年度までその傾向が継続し、2016年度から2018年度(2019年3月期決算)までの3年間は安定状態になったと言えます。

売上と景気変動、一条工務店の行動

それぞれの売上が変化した時期にいったい何があったのかについて考えてみます。

2002年に売上高を減少させていますが、これはおそらく「平成不況」の影響と思われます。2004年から2007年までの売上の上昇は景気の回復と

そして、次に前値年から売上を下げたのは2008年です。2008年の売上減はリーマンショックの影響と思われます。

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ここまでは、一条工務店の行動は無関係な外部の経済要因による売上の変化でした。

一条工務店は不景気に強い?

一条工務店も住宅メーカーである以上、景気の影響を全く受けない分けではありません。しかし、売上高の長期推移を見る限り、不景気には強い傾向が顕著です。

特に、2013年から2014年に売上を伸ばしている点でも、経済環境の変化への強さが見られます。2014年4月に消費税が5%から8%に上昇しました。この影響を大きく受けたのが住宅業界でした。2013年は駆け込み需要の影響から住宅建築棟数が大幅に上昇する一方、2014年は駆け込み需要の影響を受けて、持ち家ベースでは住宅着工件数が20%近く減少するという大打撃を受けました。

しかし、一条工務店はそのような外部経済環境下でも売上高を伸ばしていたことから景気変化への強さが見られます。

日本全体の住宅着工数トレンドと逆行する一条工務店

上では、一時的な景気変動と一条工務店の売上高の関係を見てきましたが、もう少し長期のトレンドに目を向けた時、一条工務店の異質さが顕著になります。

下のグラフは日本国内の持ち家新規住宅着工件数の推移(建築着工統計調査より)です。

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日本国内における持ち家の新規着工件数は、一時的な景気の変動による浮き沈みはあるものの、長期的にはなだらかな減少傾向にあります。2004年には新しく立つ持ち家は年間37万棟ありましたが、2018年には28万棟まで減少しています。2004年から2018年までの間に持ち家の建築市場は23.5%縮小してしまったことを示しています。すなわち市場規模は0.76倍となっています。

一方、一条工務店は売上高ベースで2.27倍の伸びを見せています。市場が縮小する中で売上を伸ばすということは、他社との競争で勝ってきたということが言えそうです。

一条工務店の利益率推移

経常利益のデータは若干の欠損があることはご容赦ください。2001年以降の一条工務店の経常利益の推移グラフは次の通りです。

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売上高よりも変化は大きいものの、これまで観測可能な範囲で赤字に転落したことは一度もないようです。

2000年代前半は概ね経常利益100億円程度、それ以降、150億円で推移してきたものが2014年に入って(おそらく2013年も)、一気に250億円を突破してそれ以降経常利益が250億円で推移しています。

上記は経常利益であるため、ここから税金も持って行かれますが、それでも直近は年間200億円程度の現金を留保できている計算となります。実際、一条工務店単体(グループ会社を除く)の税引き後当期利益は下記のように推移しています。

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2012年に利益を大きく下げているのが原因が良く分かりませんが、何らかの投資や財務処理の影響と思われます。それ以降は利益を大きく伸ばして200億円弱となっています。

いずれにしても、一条工務店は少なくとも過去20年渡って赤字に転落をしたことがない企業と言えそうです。

利益率は競合他社上位陣と同程度

ここまで一条工務店は売上も伸びて、利益も伸ばしていていることを見てきました。もう一つ着目すべき点として、経常利益率の安定性があります。

下は、一条工務店グループの売上高あたりの経常利益、すなわち経常利益率の推移を示したグラフです。

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一条工務店の経常利益率は2012年に4%を下回ったことがありますが、それ以外は概ね6%~8%台で推移しています。

国内上場の大企業の経常利益率は平均5.8%と言われるため、一条工務店の経常利益率はやや上回っています。

国内の競合他社の経常利益率は

  • 積水ハウス:9.0%
  • ダイワハウス:9.1%

などの高収益企業に比べるとやや見劣りがするもののの最近やや弱くなっている

  • 三井ホーム:2.2%
  • ミサワホーム:2.0%

などのハウスメーカーと比較すると高水準であることが分かります。

ただ、最初に書いた「一条工務店グループ」の定義に照らせば、一条工務店フィリピン工場(HRD)の経常利益は一条工務店グループの経常利益に計上されないため、本当の意味での一条工務店グループの経常利益率は???。うまいな、と。

ちょっと怖い従業員数の推移

これはデータのミス?それとも・・・

今回一条工務店の財務関連データを調べていてちょっと怖い数値を目にしたのでご紹介。

下のグラフは一条工務店の公式ホームページに掲載されていた、過去20年間の従業員数の推移です。

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1997年以降、2008年まで従業員数は3000人前後で推移し、2008年度末時点では従業員数は3200人と掲載されていました。しかし、2009年に従業員数が一気に700人減少して2500人と掲載されていました。

2008年にリーマンショックの影響から売上が前年から170億円ほど減少しました。そして、その翌年には従業員数が700人減少。。。

売上が上がれば高い給与を得ることができて、それができなければ淘汰される。。。。厳しい世界だな~と。。。

一条工務店の営業インセンティブっていくら?契約の流れと営業さんのインセンティブ!

ただ、一条工務店のホームページの従業員数は「約X人」というように曖昧に書かれていることなどから、単にデータの集計方法が変化しただけという可能性もありますが、リーマンショックで久しぶりの大きな売上減を経験した翌年となると、データの集計方法だけでもないように思えます。真実は分かりませんが、少なくとも公式ページに書かれていた情報であることは間違いありません。

ただ、その後は直近2019年3月末時点で従業員数は5200人と大きく上昇しています。

これはちょっと気になっただけで余談でした。

おわりに:一条工務店フィリピン工場の拡大と今後

一条工務店の売上高は直近3年ほど4000億円の前後でほぼ横ばい状態となっており、よく言えば安定、悪く言えば停滞している状態にあります。

2013年のi-smartの売れ行き好調+FITの後押しによって大きく売上を伸ばした「お祭り」の後の静けさなのかも知れません。あまりに急激な施工等数の伸びは、人材獲得にも資材供給などの体制整備などにも歪みを生じさせるため、全てが良いわけではありません。

ただ、一条工務店は今後も売上を伸ばして企業を成長していきたいのだろうな~と思います。

一つは従業員数の急速な伸びです。2018年4月~2019年3月までの間に新規に一条工務店に入社した人は約900人となっています。人を増やすというのは今後も住宅販売数を上昇させていくことに自信があるからこその投資だろうと思います。10人に1人以上が新入社員という状況は顧客目線では少し不安を感じるのは事実ですが。。。

そして、一条工務店が住宅販売数を増加させる意気込みとしてもう一つの行動が見て取れます。

それは、一条工務店フィリピン工場(HRD)の拡大です。

下の航空写真は一条工務店のフィリピン工場の航空写真です。資格で囲まれた部分のほとんどが一条工務店フィリピン工場となっています。右下には、2017年2月に火災があった工場の跡も見て取れます。

赤枠が概ね縦横1.3kmと広大な工場となっています。

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そして拡大しているのは、左上の土地です。用地の基礎工事を行っている風景が見て取れます。

部分的に拡大したのが下の写真です。

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右下に見えるソーラーパネルが並んだ一条工務店フィリピン工場と接続道路を使って行き来できる形でおおよそ300メートル四方の工場を新設しているように見えます。

接続用の道路が一条工務店フィリピン工場と繋がっていることなどから、工場の敷地を大きく拡大していることが推定できます。

一条工務店は住宅販売数を増加させる数年前に大きな投資を行ってきて経緯があります。例えば、2010年前後のi-cube、i-smartの投入に前後してタイル工場の投資などをして工場用地を大きく拡大してきました。

下の写真は一条工務店フィリピン工場の過去の拡大を時間とともに見たものですが、2013年に売上を大きく伸ばす原動力になったのは、2010年から2012年にかけてのフィリピン工場の拡充によるところが大きいと思います。

一条工務店のフィリピン工場(H.R.D.)でかっ!!なんだか巨大化してます。。。一条工務店躍進の原動力

2013年に売上を飛躍させた自社生産の太陽光発電システムですが、この太陽光発電システムの生産工場は2009年に50億円もの投資をしてアルバックからターンキーという方式で工場をまるごと購入した結果がもたらしたものと言えます。

一条工務店は、これまで大型の投資をしてその数年後に大きく売上を伸ばすということを繰り返してきました。太陽光発電システムの投資を見ても、太陽光発電システムが現在ほど普及したのは2011年の東日本大震災とそれに伴う原子力発電所の事故が引き金になっており、2009年の時点では現在のように太陽光発電システムが普及することを予想することは一般には不可能でした。しかし、結果として見れば2009年の投資が一条工務店の売り上げを大きく伸ばしたことは間違いありません。

今回の工場拡大が、一条工務店の住宅販売棟数を伸ばすためには、顧客のニーズにあった住宅を投入し続けることが必要なのだと思います。それは、AIを活用したスマートハウスかも知れませんし、FIT終了、FIT価格の大きな下落を踏まえた蓄電システムの活用かも知れません。どのようなものになるかはこれからなのだろうと思います。