こんばんは。さすけです。
本日は、一条工務店にお願いがあってブログをアップしました。超防災住宅の実現を目指す一条工務店で是非とも郭隗(かくかい)さんという中国の方を雇っていただけないかな~と思ってブログを書きます。隗さん特別に優秀とかではないんですけどね^^;
何言ってんの?と思われる方もいらしゃるかと思いますが、最後までお読みいただければと思います。
はじめに:この記事は一条工務店を批判する記事ではありません。
はじめにお断りしておくことがあります。これからご紹介する内容は、一条工務店を批判する意図を持ってご紹介するものではありません。
今後、一条工務店以外のハウスメーカーの営業さんなどの中には、この記事の内容に基づいて一条工務店を貶めるような営業トークをされる方もいらっしゃると思います。しかし、それは明らかに間違った説明です。
今回、私が知り得る情報として、一条工務店の情報に特化した内容にはなっていますが大手と呼ばれるハウスメーカーでは、一条工務店も含めて全ハウスメーカーで今回の問題は抱えている問題となっています。
そのため、今回ご紹介する記事の内容を持って一条工務店を批判することは適切ではない、ということをご承知おき下さい。
今回の記事では、一条工務店がその名前を冠して販売をする比較的規模の大きな分譲地において深刻な水害が発生した事例のご紹介と、その後の一条工務店の対応について、そしてそこから考えられる住宅メーカーのあり方について個人的な考えを書かせていただきます。
沈んだ一条工務店分譲地
平幕の内ニュータウンの概要
福島県いわき市にある平幕の内ニュータウンは2018年11月に完成し、売り出されていた一条工務店といわき市に本社を置くデベロッパーである「福家産業」の2社が共同開発した全120区画(内一条工務店60区画)の分譲地となっています。
平幕の内ニュータウンの立地は以下のようになっており、いわき駅のやや東寄りの北方向に位置しており、阿武隈高地から流れ太平洋に至る2級河川の夏井川を渡ってすぐの立地となっています。
JRいわき駅から徒歩圏でありながら60坪の比較的広い土地と売り出し価格1030万円~という好条件もあって、分譲地を購入された方も多くいらっしゃり、2019年の夏頃からは初期の契約者の住宅建築がちらほらとはじまっていました。
この分譲地は、一条工務店と福屋産業の共同開発分譲地であるため、区画ごとに一条工務店または福屋産業で家を建てることを条件とした建築条件付きの分譲地となっています。
台風による浸水で1m以上も浸水した一条工務店の分譲地
2019年10月13日、その平幕ノ内ニュータウンを台風19号が襲いました。
2019年10月12日から13日にかけて日本列島の中心部から北上した台風19号は関東、甲信越、そして東北地方に甚大な豪雨災害をもたらしました。
長野県千曲川をはじめ、福島県阿武隈川、茨城県久慈川など全国80の河川で130カ所以上の決壊を生じさせ、堤防の決壊には至らなかったものの河川の水位が上昇し、越水などによる水害が200以上もの河川で発生しました。
そして、平幕ノ内ニュータウンの脇を流れる夏井川でも決壊による大規模な水害が発生し、いわき市に大きな水害をもとらしました。
下の写真は、平幕の内ニュータウンの分譲地のすぐ近くにあるいわき市平窪地区の10月13日時点の水害の状況です。
いずれの写真も台風が通り過ぎて徐々に水位が下がり始めてからの写真となっており、最大水位は軽トラックの高さを超えて1m以上の水害が発生していたことがわかります。
下の写真は平幕の内ニュータウンから数百メートルしか離れていない地域ですが、夏井川が氾濫し、奥に見える団地の下まで水がかなりの深さで迫っていることがわかります。この団地のもう少し左奥が平幕の内ニュータウンになります。
平幕の内ニュータウン一帯の地域は台風当日は立ち入り禁止区域に指定されており写真はありませんが、同地域に取り残された人の一部はヘリコプターによる救助が行われており、その浸水被害の大きさが甚大なものであったことが推察されます。
事実、平幕の内ニュータウンが立地する分譲地では、1.5m程度の水位まで浸水があったとのことです。
水害後の平幕ノ内ニュータウン
台風による水害が発生してから1週間程度経過してからの平幕ノ内ニュータウン分譲地の写真が下になります。比較的綺麗な状態に戻っていますが、台風直後には1.5m以上の浸水があった地域になります。
写真中央部分にはこれから基礎工事が始まる前段階の一条工務店の立て看板も見て取れます。奥に山積みにされたゴミの山はいわき市内で発生した水害に際して発生した災害ゴミの一時集積場として分譲地の一部が貸し出されていることによるものです。
下に写っている車は誰かが乱暴に止めたように見えますが、この車は水害によって流されてしまい走行不能となって乗り捨てられた車となっています。
そのことを物語るようにマフラー部分に多くのゴミが付着していることが見て取れます。
下の写真は分譲地の全体像を写した写真ですが、既に1週間以上が経過していることもありますが、全体として水害があったことは直ちに分からない程度に綺麗な状態になっています。
そして、当初、私自身が感じたことですが、水害があったとされる分譲地にもかかわらずあまりにも綺麗であり、また何よりも分譲地に敷かれた砂や砂利も流出しておらず、本当に1m以上の水位にもなる水害が発生したのか?という疑問を感じました。
しかし、聞き取りなどを行った限り、また、市の水害被害状況などからもこの地域では間違いなく、1m以上の水位で水害が発生していたようです。ただし、その水質は一般に私たちがニュースなどで見る映像に比べて比較的綺麗なものであったため、汚泥などの被害は少なかったようです。また、恐らくですが一部の砂などは被災後に敷かれたものと思われます。
水害というと土砂にまみれた状態を想像していましたが、この綺麗さは以外に感じました。
下の写真の奥には上棟も終えて大工工事がはじまっている一条工務店の家も見て取れます。新しく敷かれたと思われる砂の流れ止めに土嚢も置かれていました。
ただ、新しい砂が敷かれていない部分については下の写真のように泥やゴミが散乱した分譲区画も残されていました。
下の写真はTwitter上にあげられていた夏井川氾濫に伴う災害ゴミが集積されている場所の写真になります。災害ゴミの奥には一条工務店のi-smartと思われる家が写っています。この地域は分譲地地域ではありませんが、分譲地以外でも多くの方が被災されたことがわかります。
これほどの水害が発生した土地でもそのまま住宅を建てなければならないのか?
法的にはその責任は土地所有者に帰属
通常、水害が発生した場合、その法的な責任は居住者(所有者)が自ら復旧などを行う責任を負います。
ただ、今回の平幕ノ内ニュータウン分譲地のケースはやや特殊な状態にあります。
それは、土地の売買契約は終わっていたものの住宅の引き渡しは受けていない段階にあったのです。
このケースでは、ある面では非常に良かった面もあります。先ほどの写真にも何軒か写っていましたが、分譲地区画の一部では既に上棟を終えて大工工事に至っている住宅はあるものの、引き渡しを受けた住宅はありませんでした。
顧客的な観点で言えば、これは非常に良かった面もあります。
住宅建築の請負契約では、引き渡しを受ける前の段階で住宅に何らかの問題が生じた場合、その責任は一条工務店が負う契約となっています。引き渡し後は住宅所有者の責任となります。
そのため、平幕ノ内ニュータウンの分譲地で建築途中にあった住宅は水害自体は避けられなかったものの、その復旧義務は一条工務店側にあり(まあ保険に入っているとは思いますが)、顧客側が万が一水災保証オプションを付けていない火災保険に加入をしていたとしても建築物への被害は一条工務店の責任によって復旧されることになります。
その一方で、悩ましい方々もいらっしゃいます。それは、この分譲地を既に購入されており、しかし、まだ建築請負契約に至っていない方、さらには、建築請負契約を済ませているものの着工に至っていない方々です。
こうした方々にとっては、良くも悪くもまだ「引き返し」ができる状態にあります。
もちろん、法的な観点からは一度契約した土地売買契約を破棄するため、さらには一条工務店との建築請負契約の破棄や、本契約の破棄が必要になるため、本契約状態の方で数十万円(除:土地売買契約破棄に伴う違約金)、建築請負契約まで済ませている方であれば場合によっては100万円以上から数百万円の違約金が発生します。
いずれにしてもかなりの額の違約金にはなりますが、法的には解約して別の土地を探すことも可能という段階にあります。既に上棟まで行われているケースでは契約破棄の場合、住宅本体価格の相当額が違約金となってしまうため現実的には解約を行うことはできませんが、違約金額が相当額になるとは言え、一般的には自己資金の範囲内に収まる範囲の違約金で解約を行えるという「選択肢」が残された状態になっています。
一条工務店の名を冠した分譲地で水害が発生しても法的責任はない?
もしも平幕ノ内ニュータウンの分譲地が、第三者のデベロッパーによって造成された分譲地であれば、その責任を一条工務店に問うことは明らかにおかしなこととなります。
同様に、自分で探してきた土地が水害にあってもそれはやはり一条工務店の責任を問うことは、法的にはもちろん、道義的にも行えるものではありません。
しかし、今回の平幕ノ内ニュータウンについては、一条工務店が福家産業と共同で開発し「建築条件」を付けて販売した土地になります。さらに、一条工務店は「超防災住宅」の実現を目指すことをメディアにも語っており、その超防災住宅を目指す企業が大規模な水害の発生が予測されており、そして事実発生した地域に分譲地を造成することの是非については、法的な問題とは分けて考える必要があるように思っています。
一条工務店の責任:本当にその土地は分譲地として適切だったのか?
ハザードマップで最大2mの水深域となっている平幕ノ内ニュータウン
いわき市のハザードマップ(2015年改訂版)を確認すると平幕ノ内ニュータウンが立地する地域は、浸水の目安として「最大2m以上(2階以上)」の浸水が予想される地域となっていました。
ハザードマップの説明は行われていた
ハザードマップの浸水域だから分譲地は作ってはいけないとは思いません。
土地売買契約においては重要事項の説明が必要となります。現時点では土砂災害や津波災害区域については、ハザードマップ上の危険区域に指定されている場合はその事実を売買契約時に重要事項として説明する必要があります。しかし、浸水被害については一般には重要事項説明に含めることは必要ではないとされています。一方で、一条工務店ではハザードマップを示した重要事項説明が行われていました。この点からは、一条工務店は法に基づく対応を超えた対応を行っていたと評価できます。
水田を造成、すぐ分譲は妥当か?
法の指定を超えて、分譲地が浸水域に指定されていることを説明しているから、まったく問題ない、というのは法律のみに基づけば事実です。
ただ、本当にそれだけで良いのか?とも考えさせられます。
下の写真をご覧ください。これは、数年前に撮影された平幕の内ニュータウンの造成地の風景です。水田が広がる風景がきれいです。
続いて、下は今年の6月に撮影された平幕の内ニュータウンの造成地の風景です。
水田はきれいに造成されていることがわかります。
平幕の内ニュータウン自体は、水田を埋め立てて造られた分譲地となっています。
水田や川を埋めた造成地自体は決して珍しいものではありません。
以前私が住むつくば市においても同じ問題を指摘したことがありました。
しかし、これは個人的な意見に過ぎませんが、こうした造成は本来可能な限り避けるべきと思います。
営利企業である一条工務店の立場を考えれば、こうした水田や河川のように、本来は宅地としては問題がある土地であっても、または、そうした土地でなければ駅から近くて、人気を得やすい分譲に適した土地をまとまった面積購入すると言うのは難しくなっていることはあろうかと思います。
また、技術の発展により、おそらくは適切な造成が行われ液状化などに対する対策は取られているのだろうと推察します。
しかし、ハザードマップの2mもの浸水域にあり、元水田というのはすなわち、水を引き込むのに適した土地であるというのと同じことです。
防災を考える上では、技術に頼って災害を防ごうとする努力は推奨されるべきことですが、それ以前にそこを分譲地にしていなければ、避けられる災害もたくさんあるように思うのです。
こうした側面からも本当に、「超防災」を標ぼうしようとする一条工務店が分譲地として提供するのに適切であったのか?ということはきちんと考えるべきのように思います。
私たち顧客は一条工務店の名前を冠しているからこそその分譲地を購入するという意思決定をするという面もあり、それは一条工務店のブランドとしての価値を維持するためにも、そして、企業としての倫理的責任を果たす意味でも、その分譲地の造成を行うことが一条工務店のという企業の企業倫理として適正な判断であったのかは今一度考える必要があるように思います。
いわき市分譲地の歴史と水害そして平幕の内ニュータウンの位置関係
ここで、少しいわき市の分譲地造成の歴史を見てみます。
現在のいわき市は1966年に14の市町村が合併することによって誕生しました。
当時としては希な市町村の大型合併によって生じた問題として、複数の市町村が合併したことにより市街地が分散してしまっていたという問題がありました。そこで、いわき市では「いわき市都市整備基本計画報告書」が東京大学の研究室によって作成され、この計画案に基づき、1977年より、「いわきニュータウン」の造成が開始されました。いわきニュータウンの造成地は下の写真の白枠の範囲となっていました。
(出典:いわきの『今むがし』より)
その後、郷が丘、石森ニュータウン、平成ニュータウンなど多くの大規模住宅地が造成されていきました。おおよその開発終了時期をいわき市周辺の地図の上に描いたのが下の地図です(参考:社会構造の変化と住宅団地の開発について~いわき市平地区を対象として~,福島工業高等専門学校)。
このいわき市周辺の地図上のプロットを見て何か気が付くことはないでしょうか?
いわき市においては、市が計画的に行った宅地造成ではその全てが原則、丘陵地に位置しており、河川の周辺には立地していないのです。
先に見たいわきニュータウンも山を造成した造成地となっており、水害が予想されない地域に立地しています。現在のハザードマップは1000年に一度の水害を想定しており、実用上は十分な被害予測をしています。一方で、一条工務店が造成した分譲地である平幕ノ内ニュータウンは深刻な水害が予想される地域に立地していたことは事実です。
本当にここに分譲地を作って良いのか?
ただ、先ほどのニュータウンの多くはバブル以前に計画されたり、造成されたものが多く、現在とは社会造成も大きく異なることを踏まえると、過去の大規模造成地と令和に販売されている平幕ノ内ニュータウンを並列に比較することはフェアではありません。
しかし、もう一度、地図を俯瞰してみるともう一つ気が付くことがあります。
上記画像のほぼ中央にいわき駅があり、その周辺に多くの住宅や商業施設が密集していることがわかります。その住宅の密集は南側に向けては好間川を越えても続いています。一方で、北側は、平幕ノ内ニュータウンの下(南)を流れる夏井川を境に、ぷつりと住宅の密集が途切れてしまいます。
橋の本数の違いのようにも見えますが、さらに北に行けばバブル以前に開発が開始された石森ニュータウンがあり、必ずしも橋の問題だけでは無さそうに見えます。
何より、夏井川北部域には明らかに水田が多くなっていることも気になります。
下の画像は、国土地理院の地図を使い、高低差を色分けした地図になります。
高さとしては、市街地側に比べて僅かに平幕ノ内ニュータウン側の方が低くなっているように見えます(ハザードマップでも一部水深予想がへんかしています)。また、夏井川北部側は全体として水田が多いことからもわかるように、やや低地になっており水害には遭いやすい立地となっていることもわかります。
夏井川北側にある少しだけ高台になっている部分に神社が建てられており、一般に神社やお寺は水害が発生しやすい地域では高台に建てられることが多いことからもこの地域が水害が発生しやすい地域であった可能性が高いことが見て取れます。もちろん、いわき駅側も十分にその土地の高さは低く、水害に遭いやすいことから、ただちにここに分譲地を作ってはいけないという結論は導けません。
ただ、上記のような状況を踏まえると、水害は十分に予想される地域であったことは疑う余地はありません。
こうした場所に一条工務店の名を冠した分譲地を造成することの適切性について一条工務店の社内で議論があったのかは気になります。
水害その後:一条工務店の対応
法律で突っぱねることはしなかった
水害が発生した直後、一条工務店から分譲地の購入者に対して個別に説明が行われたと聞いています。
自社分譲地で水害が発生したことは、一条工務店にとっても決して軽く取らえられる問題ではなかったであろうことは間違いありません。
また、一条工務店がお客さんに対して「法律」を盾にあらゆる問い合わせに対して突っぱねるような対応は取らなかったという点は一条工務店を評価すべき点と思います。分譲地の選定に問題はあったかも知れませんが、実際に水害が発生した状況下では法律的には一条工務店には何らの対応を採る必要がない、と回答することができたにもかかわらずそれをしなかった点はきちんと評価されなければいけないように思います。
台風19号による水害は、一条工務店にとっても長期的に見れば水害の発生自体は予測可能であったかも知れませんが、それが自社が分譲した直後、住宅の引き渡し前に発生するということは想定の範囲外であったことと思います。
こうした想定外の問題では、主張が二転三転することはある程度仕方ない面があろうかと思いますが、いくつか気になった点がありましたので、私が把握している範囲の水害発生後の一条工務店の対応を記述します。
一条工務店は水害が発生してすぐに、分譲地の購入者に対して電話等で連絡を行い、何らかの対応が取れるかもしれないのでしばらく待って欲しい、という説明を行っています。その際に「無償での解約」も踏まえた対応を視野に入れているような説明が行われていました。ただ、この無償解約への言及が営業さん個人の考えであるのか、それとも営業所の考えなのか、それとも一条工務店本社の考えであるかはわかりません。
ただ、複数の分譲地購入者の方が、当初説明では「無償解約」を含めた検討を行うような回答を受けており、営業さん個人の考えでの発言ではなかったと推察されます。
耐水害仕様での建築提案
台風直撃から10日ほど経過した段階での一条工務店からの回答は「耐水害住宅仕様での建設」というものでした。ただし、「解約の場合は通常の解約となり無償での解約はなし」という回答となりました。
これは先日もブログで紹介した一条工務店が10月に実証実験を行い、今年中には一般提供をするという話をしていた住宅の新仕様です。
まだ10月に実験を行ったばかりであるとは言え、今年中に耐水害仕様住宅の販売を開始すると話していたことを考えると、驚きと同時に本当に大丈夫なのか?という心配もありましたが、一条工務店は正式な回答として耐水害仕様による建築という方向性を申し出てきたとのことでした。
この時点の意思決定は、当然のことながら一営業所が行える判断ではありませんので一条工務店本社の意思決定となっています。営業さんからの説明では、一条工務店の常務による判断とのことです。一条工務店の常務は創業メンバーのお一人ですので、非上場企業らしくトップに近い形での鶴の一声的な意思決定として耐水害仕様住宅の提供が決定したと考えられます。
この時点で費用の話はなかったことから、既存の建築請負額から変更することなく、無償で耐水害仕様住宅を建築することが申し出られたことと思います。
分譲地の選定自体に問題はあったかもしれませんが、法的には責任がない中で耐水害仕様住宅としての提供の判断は素晴らしいものと思われました。
ただ、気になったのは分譲地である以上、先の耐水害仕様実験で使われたi-smart以外にも、i-cube、セゾン、ブリアールなどその他の住宅タイプの販売も行われておりその点がどうなっているのかが気になりました。
しかし、一条工務店からの回答は「住宅タイプによらず耐水害仕様で提供する」というものでした。
この時点で、一条工務店が社内的に他の住宅タイプで施工するための実験等を行っている可能性もありましたが、個人的には「やや前のめりすぎ感」を覚えました。
一条工務店は非上場企業であるが故に、良い面としては常識にとらわれない、短期的には収益につながらないような実験を行い商品化を実現するケースも多くあります。耐水害住宅もそうですし、蓄電池の常識とはかけ離れた低価格での提供、少し前で言えば夢発電、それよりももっと前で言えば、一条工務店はの現在の魂とでもいうべき、高断熱高気密、全館床暖房仕様など、従来の大手ハウスメーカーが技術的というよりも株主への説明責任や、常識的な考えによる意思決定では行えなかった判断を行うことで、注文住宅施工棟数で国内トップになったという経緯があります。
一方で、失敗も結構多い印象を持っており、勢いで始めるけれど、よくよく考えたら無理だったよね、ごめんね、というケースや、よくよく考えたらこれまずくない?という仕様でも一気に提供してしまう面もあります。例えば、私がブログを通じて関わった問題で全国区の問題となったものとしては外壁断熱材へのネズミの侵入の問題や、i-smart販売開始直後にあった、全面タイルの施工不良の問題などが挙げられます。その他にも免振住宅の長周期振動の問題など勢いがある反面、問題が出てしまうこともあります。ただ、フォローしておくと失敗しても、その後対応はきちんと行っている印象です。
ただ、今回の耐水害仕様住宅の提供については、まだ実験段階に過ぎず、i-smartで引き渡しているのならば良いにしても、まだ実邸がない状況で、実験も経ていないi-smart以外での耐水害仕様住宅が本当にできるのか?という疑問を感じました。勢いで行くにはちょっと無理があると感じました。
また、そもそも論として、一条工務店の耐水害仕様は水深1mを想定している中で、今回の平幕の内ニュータウンではその水深は1.5m以上に達していたとされており、万が一今回と同規模の水害が発生した時、耐水害住宅の使用上の限界1mの水深を超えるので浸水することはまだ仕方ないにしても急速な水位の上昇によって、室内への浸水速度を上回る速度で水位が上昇した場合の住宅強度の問題、そして、浮力の問題は大丈夫なのか?と疑問を感じました。セゾンやブリアールでの耐水害仕様実現は、その仕様を最もよくわかっている一条工務店であれば、実現は不可能ではないように思いますが、「想定外の水位の上昇、2m以上の浸水」は実験もしておらず、これを提供することは本当にできるのかというのはかなりの不安要素として感じました。
やっぱり耐水害仕様住宅は無理!
そういった疑問を感じていたものの、一条工務店が創業メンバーの意思決定として顧客に伝えたことを覆すことはないだろうとも思っていました。そんな矢先。。。。
一条工務店から、「耐水害仕様住宅での提供は白紙にしてほしい」という申し出があったとされています。
理由としては、やはりといえばやはりで、その段階でよく顧客に伝えたな~とむしろ感心してしまうぐらいですが、耐水害仕様住宅に問題がある可能性があるため撤回してほしい旨を申し出てきたとのことです。
説明としては、「構造上の問題」とのことで、水深1mを超える想定外の水害が発生した場合の問題から耐水害住宅を提供することは困難という判断に至ったとのことです。
ここで気になったのは、最初の段階で「法的責任はない」ということで突っ張らなかった点は評価されるべきと書きましたが、現状では耐水害住宅での提供なし、解約は通常の費用が発生、となっておりそれって、結果論としては最初の段階で「法的に責任はない」として突っぱねたのと同じ状況になっていないか?という点が気になりました。
もちろん、経営層の方たちが決して法的な責任がないということで突っぱねたわけではないという点は評価できますし、現時点では待ちの状態である以上今後より良い解決に向けた提案が行われる可能性は十分に期待できると思っていますし、そうであろうと思って見守っていますが、それでもやはり現像は「法的責任なし」という判断をした場合と同じ結果に戻ってしまっているという点は気になりました。
ただし、フォローはされていた
法的責任なしと突っぱねたのと一緒と書きましたが、少しだけ語弊があるので追記します。
一条工務店では、今回の台風による浸水被害を受けて、引き渡しや上棟の延期が行われており、それに際して生じた被害としてつなぎ融資の金利などは一条工務店側が負担していると聞いてます。よって、単純に「法的責任なし。よって建築も予定通り行う。」という判断とは一線を画して考える必要はあります。
部分的耐水害仕様の提案(←いまここ)
その後、さらに1週間程度の時間をおいて一条工務店から新たに提案があったのは、一言で言えば「耐水性のない部分的耐水害仕様の提案」と言ったものでした。
先で問題になった、住宅そのものを防水し耐水害性能を得ようとする部分は浮力などの問題から解決に至らなかったようで、現状で一条工務店から提案されているのは
- 水害時に室外機が壊れることを防ぐため、室外機を高さ1m20cmの位置に設置
- 耐水害住宅で使用されている長府製エコキュート(電子基板が上部に設置されており水没しても故障しない)
- 逆止弁の設置
という提案でした。
室外機については水没してしまえば故障の原因となるため、地面からの高さ120cmに取り付けられるとのことでした。ちょうど下の写のような感じで金物で高い位置に取り付けられるとのことです。
また、エコキョートについては下の写真奥に置かれているものですが、こちらは長府製の耐水害仕様エコキュートになっており、通常はメンテナンス性などからエコキュート下部に取り付けられている電子基板がエコキュート上部に取り付けられているものとなります。エコキュートは電子部品以外はタンクですので、水没しても浮いたり、壊れたりすることがないため、電子基板のみを上部に配置したようです。
最後に、逆止弁ですが、下の写真のようになっており水害発生時に問題となる下水の逆流を防止する機能を有したものが取り付けられる予定とのことです(壊れたり詰まったりしないんですかね?)。
現時点では、一条工務店としては可能な範囲で耐水害仕様を取り込む形での住宅建築を提案しているようです。ただし、耐水害仕様において最も肝心な住宅内への浸水防止措置については行われないようです。
もういっそ蓄電池も付けたら?とは思いますが、このあたりは一条工務店としては現時点で技術的に対応可能な範囲で精一杯の提案ということなのだろうと思います。
個人的には、これは現状での妥協点として仕方ないかな?と思う部分ですが、将来的に耐水害仕様が固まった段階で、後から対応可能な部分が出た場合にはきちんと対応をするのが良いのではないかな?と思います。
これは別に無茶ぶりというわけではなく、一条工務店では過去に耐震性能が旧法律に従ったもので耐震性能としては法律的には問題がなかったものの、新しくできた法律上は問題があることが後になってから分かったケースで、耐震性能を高めるホールダウン金物と呼ばれる金物を旧耐震基準で建築した全戸に対して後付けしたという実績があります。
今回のケースでも、平幕の内ニュータウンに関して言えば水害が発生するということは、造成後ではありましたが明らかとなっており、また、現時点においては技術的に解決すべき問題が残っているものの、一条工務店は耐水害仕様の研究開発を行っているわけですから、後から完全な耐水害仕様にすることはできなくても、研究開発が終わり耐水害仕様住宅の一般提供が開始した段階で耐水害仕様の良いところを後付けできるのであれば後付けしてほしいな、と思います。
私たちは平幕の内ニュータウンにの水害からどう考えなければならないのか?
結局は契約者の問題ではないの?
上記を読まれた多くの方にとっては、平幕の内ニュータウンの話は他人事であり、自分とは無関係のことと思われたかと思います。
一条工務店は契約時に法律の範囲を超えてハザードマップの説明もしており、また、実際に問題が起こって以降も法律に基づいた冷たい対応ではなく、可能な範囲で耐水害仕様にしようとする努力なども垣間見えます。
こうした対応を見て、結局は契約した人の問題だよね、契約した人の自己責任だよね、とやや冷ややかな反応もあろうかと思います。
しかし、私はそうは思いません。
私自身も含めて、仮に契約時にハザードマップを見せられて、それが現実に起こるものだと受け入れらる人はどれぐらいいるでしょうか?もしも複数の土地の候補地があり、そのうちの1つがハザードマップ上の危険域に指定されているのであれば、その土地は候補から外すということはできるかもしれません。
しかし、そもそも候補地がその土地しかなく、ハザードマップの危険地域になっていても、「でも大丈夫だよね」と考えてしまうのが人間と思います。
そう考えることが分かっているからこそ、一条工務店をはじめとした住宅メーカーは多少リスクのある分譲地で会ってもそれを造成し、また販売するのではないかと思います。
そうした危険性が高い土地は、少なくとも「超防災」を標榜したいならば分譲地として提供すべきではないと思っています。
しかし、それでも全てを法によって縛ることは不可能で、法で縛られていない異常は一条工務店がやらなくても誰かが分譲地として造成をします。
ですから、最後は自分で調べて、平幕ノ内ニュータウンのようなケースを決して他人事であったり、自己責任で片付けるのではなく、それを販売する企業に対して「そんな土地を分譲しちゃう会社なんだね」という、造成する企業側にこそ冷たい視線を向けるべきではないかと思っています。
他人事としてはとらえず自分で調べる
今回は福島県いわき市の平幕の内ニュータウンの話のみを書かせていただきました。しかし、一条工務店は分譲地の販売を積極的に行っており、平幕の内ニュータウン以外でも長野県や新潟県の分譲地においても浸水被害が発生した地域が複数存在します。実際に、そうした分譲地の情報は一条工務店のWebサイト上から消えているので、浸水被害などがあったことがすぐに確認できます。
そのため、平幕の内ニュータウンは決して例外的な事象ではありません。現状では、水害が発生したとしてもその法的責任を販売者側に問うことは難しい状況です。
こうしたことから、先ほど言っていたこととは矛盾するかも知れませんが、現時点では私たちは私たち自身が家を建てる場所について自分自身で考えるしかない、という極めて当たり前の結論に至ります。
これは、過去にやはり福島県であった地盤崩落による住宅の全壊とそれに伴い、テレビなどで「一条工務店の欠陥住宅(テレビでは名前は出ていませんでしたが)」として報道がなされた結果からも同じことが言えるかと思います。
結果として災害が起こってしまってからでは、自分自身で問題を解決することは極めて困難となります。さらに言えば、このような災害においては法律も私たち消費者を守ってくれるとは限りません。
ですから、最低限土地を購入する際にはその地盤、浸水リスク、さらには土砂災害や津波リスクといった様々な自然災害リスクを自分自身で調べて、そこに家を建てることが問題がないかを確認する必要があります。
実際に災害が発生してから「知らなかった」といくら叫んでも、現状ではだれもそれを守ってくれることはありません。。。。
そして、これは一条工務店に限らず大手ハウスメーカーであれば多少の差こそあれ大きな違いはありません。
一条工務店に向けて
超防災住宅の実現は住宅性能だけでは不可能
一条工務店は超防災住宅の実現を目指し、耐震性能の向上、さらには耐水害住宅の実現といった「住宅性能の追求」の先に超防災住宅を位置付けているように見受けられます。
ただ、これは極めて当たり前のことですが、「超防災住宅」を目指すならば、まず考えるべきは住宅の性能よりも立地が優先されるべきです。
なぜならば、地震はもちろん、水害、さらには津波、土砂災害のあらゆる災害に対して住宅性能の追求だけを持ってこれに立ち向かおうとすることは、太陽に向かって落ちてしまったギリシャ神話のイカロスと同じです。いかに耐震性能を高め、耐水害性を高めても、東日本大震災の例にみる通り、津波に耐える家を作ることは経済性の観点も含めて現実的ではありません。同様に大規模な土砂災害があっても中に居住する人の安全性を確保できる家は、それはすでに住宅ではなくシェルターです。水害についても1mまでの水害に耐えられる家を実現することは意義のあることと思いますが、それを延長して、2mの水害に耐えられる家を作っても、平成30年7月豪雨における倉敷市真備町の例にもある通り水深6mもの水害が発生すれば、住宅は浸水します。それを防ごうとすれば住宅ではなく潜水艦を作らなければならなくなります。高性能化という技術の力のみによって災害をねじ伏せることはできません。
一方で、科学の発展によって、どこでどのような災害がどの程度の頻度で発生するかという予測精度は大きく向上してきました。また、2015年の水防法改正によって、自治地帯が公表するハザードマップにおける洪水被害予測は従来の100年に1度の豪雨想定から1000年に1度の豪雨を想定するように法改正も行われ、自分たちで調べなくても法律に基づいた自治体のハザードマップを利用すればかなりの程度の災害を避けることができるようになっています。
一条工務店に実現してほしい「超防災住宅」
そうしたことを考えると、第一に考えるべきは「立地」と思います。しかし、この立地でも、ハザードマップで水害が懸念される場所には家を建てるべきではないと言うことは簡単ですが、下のハザードマップにある東京都の墨田区のようにその全域がハザードマップにおける浸水域に指定されている自治体もあります。
ハザードマップで浸水が予測される場所に家を建てるな!ということは、こうした自治体に住むな、ということと等価でありこれもやはり現実的ではありません。
そうしたことを考えると、超防災なるものがあるとしてそれを目指すならば
- 土地探し、分譲地の立地選定
- 事前の説明をきちんとする
- 耐水害住宅などのハード面の整備
- 情報提供や避難経路の災害発生前の情報提供による避難誘導
最低限この4つがセットになって初めて、一条工務店が言うところの「超防災住宅」が実現が可能なように思います。
土地探し、分譲地の立地選定
最初に、まずは「避けられる災害は避ける」ということが徹底されるべきです。
まず、一条工務店がその名前を冠して販売する分譲地については社内で一定の基準を設けて、そこが仮に「売れる」と判断しても、災害発生に関する要件と照らし合わせた時、一条工務店が販売する土地として適切ではないと判断されるならばその土地は分譲地としない、という強い意志を持ったルールを作っておく必要があるように思います。
先の平幕の内ニュータウンなどがその典型と思いますが、ハザードマップ上では浸水リスクが一定水準以上、さらに河川に隣接した土地であり、地図を一目見れば明らかに不自然に市街と分離されていて、周辺は急に水田が広がる土地は「分譲地としては適切ではない」という意思決定がなされることが望ましいように思います。
その際に、自分たちでルールを作るというのでもよいと思いますし、大学等で災害を専門とする先生たちを招聘して第三者委員会を作り、分譲地造成前に一度検討するというのでもよいかと思います。
ただ、先の墨田区ではありませんが、ハザードマップで災害リスクのある場所には家を建ててはいけない、分譲地を作ってはいけない、ということではないと思います。そうした場所に分譲地を造成する場合は、例えばお客さんが拒否しても耐水害仕様住宅を選択しなければならない、はたまは、火災保険はお客さんが拒否しても水災オプションをつけなければ受けない、といいった形でその土地を完全に否定するのではなく、その土地に家を建てるならば一条工務店としてはこうした家以外は建てない、という判断ができるようにすべきと思います。
これは決して非現実的なことではないと思っており、例えば、一条工務店では「耐震等級3」の家以外は建てていないかと思います。お客さんが耐震壁が邪魔だから、耐震等級2でよいので壁を取ってほしい、と言ってきても一条工務店ではそれを拒否していますよね?それと同様の取り組みを、水害や土砂災害などにも拡大すると思えばやってできないことはないと思います。
事前の説明と情報提供
少なくとも、平幕ノ内ニュータウンのケースにおいては、一条工務店はハザードマップの情報を含めて重要事項説明を行っていました。
これがどの程度の範囲で行われているのかはわかりませんし、既に行われているかも知れませんが、例えば顧客が自分で探してきた土地であってもその土地のハザードマップを一条工務店が調べ手提供すると言った対応が望ましいように思います。
当然、企業としては他社が説明をしていないネガティブな情報を積極的に伝えることについては懸念があると思います。しかし、ハザードマップの情報と災害のリスクを提供されて、きちんと説明されたとき多くのお客さんはそれを意味のあることとして受け入れてくれるのではないかと思います。
例えば、土地の売買契約に立ち会う場合、分譲地はもちろんそれ以外の土地においても、契約書と一緒に自治体のハザードマップを提供し、そのハザードマップ上に住宅の場所を示し、さらに、避難所の情報を提供するという取り組みであれば比較的容易に実現でき、かつ、それは信頼にも変わるように思います。さらに、ハザードマップの浸水域を単純に否定するのではなく、そのハザードマップの被害想定であれば、どのような対策をすべきか、そしてどのようなケースでは避難をすべきかといった情報をきちんとすればそれはお客さんいとって決して一条工務店に対してネガティブな感情を持つきっかけにはならないように思います。
例えば浸水リスクが水深50㎝ならば、土地を少し高くしましょうという提案もできますし、水深1mが想定されるならば耐水害住宅仕様を提案する、さらに水深2mであるならば、警報が出た段階で「XXの高台にある避難所に逃げてください」、「防災用品は1階に置かず2階にも置いてください」、「水災保険は必ずつけてください」といった顧客にとって有益な多くの提案が可能になります。
心無い他社の営業さんの中には、「自分たちの家の性能が不安だから避難所の情報を説明してる」と貶める方もいらっしゃるかもしれませんが、その批判が不適切なものであることは多くのお客さんはすぐにわかってくれると思います。
現状では、お客さんが自ら調べなければならないという状態では残念ながら100%のお客さんがハザードマップを確認して、自分ですべてのリスクを把握して判断するということはできません。しかし、多くのお客さんに接する営業さんたちであれば、お客さんが見落としがちなリスクに対する対策をきちんと提案することができます。だからこそ、お客さんに対するリスク情報の提示すべきと思いますし、それができると思います。
それこそハザードマップを重要な営業ツールにすることさえできると思うのです。
耐水害住宅などのハード面の整備
これは一条工務店が最も得意とする部分ですので、何も言われなくてもやると思いますが、上記の分譲地等の適切な選定、そして、事前の適切な説明があって初めてハード面の整備が活きてくるのだと思います。
そして、ハード面で重要なことは「想定を超えたらあきらめる」設計と思います。想定を超えてからの「あきらめ」こそが生命や財産を守るためには不可欠なのだろうと思います。例えば耐震性についていえば、「どこから壊すか」ですし、耐水害であれば「どこから住宅内に浸水させるか」といった設計が必要になります。
どこから壊すかというのは、例えば想定外の震度の地震が発生した時、最後まで踏ん張って一気に倒壊するのではなく、例えば壁から壊れるように設計するということであったり、水害についても現状で1mの水深が限界であればそれ以上の水位に達した段階で、安全にかつ迅速に住宅内に水を浸水させることが必要になってきます。そうでなければ、想定外の水深に達して基礎と住宅が外れてしまい、住宅そのものが転倒してしまうしてしまうといった水害以上の被害を招きますし、地震についても一気に崩壊して中に取り残されていた人が押し潰されるという最悪の結果にもなります。そうならないためには、想定外が発生した時にどうやって「あきらめるか」が重要なのだろうと思います。
情報提供や避難経路の災害発生前の情報提供による避難誘導
これは住宅メーカーがすべきことなのか?という議論があるかと思います。
災害が発生することが予見された段階で、例えばスマホアプリで知らせる、さらに住宅の中にモニターがあればそこに警告を表示する。そして、その情報を地域毎にカスタマイズした情報で表示するということは難しいですが実現自体は不可能ではないように思います。また、在宅情報や在宅者の属性を踏まえた情報提示なども考えられます。
なぜテレビなどのメディア情報ではなく、一条工務店が情報を提供する必要があるのか?と思われるかもしれません。
なぜならば、テレビはどうしても大多数に向けた情報になってしまいます。そのため、いわき市、つくば市といった市レベルの危険情報を提示することが限界です。一方で、水害や土砂災害などはそれよりもずっとミクロな単位で危険が迫ります。いわき市XX区といったレベルの情報も出されますがその判断は自らが行う必要があります。
「XX区の人は避難してください。」と言われるのと、「さすけさんのお宅は避難して下さい」と言われるのでは同じ情報でも意味合いが全く異なってきます。
水害であれば、水害が発生する地域と発生しない地域は数百メートル程度しか離れていないことも多くあります。土砂災害についてはもっとミクロで数十メートル離れれば安全になるケースさえあります。
そこまで細かな情報をテレビから知ることはできません。
しかし、住宅メーカーであればその住宅が立地する場所を正確に把握しており、いわばピンポイント精度で危険情報を提供できます。例えば、浸水域であれば、「今後12時間で浸水する可能性が高いからXXさん宅はXXに非難する準備をして下さい。」「避難所に避難する時にはXXやXXを持っていきましょう」といった具合にその住宅の条件にあった情報提供が実現できます。
これはインターネットで主体的に情報を取得しに行けば得られる情報であるかもしれませんが、日常的にそういった情報に触れていない限りは取得が困難です。そして、結果的に判断を間違えて逃げ遅れが発生してしまうのだろうと思います。しかし、あなたが住むXX市XX区のXX番地は水害の発生リスクが高まっています、と言われればより適切な判断を行えるようになります。
一条工務店が販売を開始する蓄電池や、さらにエコキュートなど比較的自動制御に向く装置であれば、顧客の手動制御を優先させることを前提に、顧客による制御が行われていないのであれば、例えば台風が近づいてきたらその段階で「全蓄電維持」を前提のモードに移行してしまうことで、万が一の台風による停電が発生しても蓄電池がフル充電から使用開始できるようになります。
こうしたことを実現するためには、通信インフラが不可欠ですが、一条工務店ではIoT通信機器を蓄電池の標準セットに含めており、そうした機器を使用すれば上記のようなことが実現が可能です。
こうしたことを行うべきなのは本来は自治体であるかも知れませんし、一条工務店がそこまで生活者に介入すべきかという議論はあろうかと思いますが、超防災を標榜しようとするならばそういった取り組みは不可欠のように思います。
住宅の性能のみによって生活者の安全を守るのではなく、そうした事前の準備、そしてハードによる保護、さらにソフトによって安全性を高め、最後は安全に避難させることまでを含めて初めて超防災というものは実現するのだろうと思います。
そして、こうした網羅的な取り組みこそが「一条の新たな『レジリエンス』提案」ではないかと思うのです。レジリエンスとは、単に蓄電池を提供すること、耐水害仕様住宅を提供することで終わることではないように思います。
で、一条工務店で隗さんを雇いませんか?
それは一条工務店がすべきことか?他社がやらないことまでする必要があるのか?
分譲地の選定を自社で締め付けるような取り組み、さらには顧客にネガティブに受けとられけねないハザードマップ情報の提供、耐水害住宅を最後は水に沈めるような取り組み、さらには本来は自治体が行ってもおかしくないような情報提供や避難誘導、そこまでを一条工務店がすべきなのか?こうしたことを行えば結果的に他の住宅メーカーに出し抜かれるような結果になってしまうのではないか?といった様々な疑念や不安が出てくるかと思います。
しかし、顧客は決して馬鹿ではありません。それが本気で行っていることなのか、それとも単に宣伝で行っていることなのかはすぐに見抜かれます。
外から見ている限り、良くも悪くも一条工務店は「超防災住宅」を指向しているように見えます。それは、耐水害住宅仕様住宅を実現させたことからも明らかです。一方で、一条工務店が考える超防災住宅には、ハードの高性能化は入っていても、ソフト的な側面は欠如している用にも見えます。そして、このソフト面は一条工務店が従来あまり得意としてこなかった部分でもあるように思います。しかし、超防災やレジリエンスを標榜したいと考えるならば、ハードだけによる実現は不可能と思います。
隗より始めて見ませんか?
中国の周代に燕(えん)という国があり、その王であった昭王に郭隗という人物がいました。その昭王が郭隗に対して「賢人を集めるにはどうすればよいか?」と問うたとき、「まずは凡庸な私、郭隗を重用してください。そうすれば、より優れた賢人はあの郭隗があれほど重用されるのだから自分はより大切に扱われるに違いないと考えて、自然に優秀な人材が集まってくるでしょう」と述べたという故事があります。このことから、何かを始めるにめるにはまず自分から率先してはじめなければならない、といった意味で「隗より始めよ」という言葉が生まれました。
一条工務店は自らが「超防災」という新しい概念を標榜しようとしています。そうであれば、それは別の誰かがやること、ではなく自らが主体的にして行うことではじめて目指すべき「超防災住宅」が実現できるのではないかと思います。
燕の昭王が隗を雇ったように、一条工務店も自らがその隗を雇う立場になることが必要なのではないかと思います。